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ウールの加工方法

ラクストンズ・スペシャリスト・ヤーンズ


ラクストンズ スペシャリスト ヤーンズは相次ぐ逆境を乗り越えてきた。1930年代の世界恐慌時代には従業員は隔週で働いた。その後、世界恐慌から回復する間もなく、従業員のほとんどが第二次世界大戦の前線に向かうことになる。第二次大戦中は、前線の兵士たちを支援をした多くのビジネスが爆撃を受けて消え去った。

その後数十年の間、ビジネスは成長したが、同社を経営する家族の四代目となるジェームズ・ラクストンが1992年に同社を引き継いだ頃から、英国の繊維業界は厳しい状況に陥り、最終的にラクストンズの製造活動はすべて停止することになった。「10年以上の間、製造はすべて海外に発注し、弊社は単なる事務所でした。スペインや南アフリカ、トルコのミルと協力し、弊社の仕様に沿った糸を製造してもらっていました」と営業部のアラン・ソーンバー部長は説明する。しかし、ジョージ・ラクストンとゴードン・ホームズが同社を創業してから110年後の2017年春、ウェスト・ヨークシャーのベイルドンに建設された同社の真新しい1万6千平方フィートの最先端紡績工場で再び機械が動き出した。

ラクストンズは梳毛織物と「ファンシー」ヤーン(「ファンシー」はこの地域の英国口語「上流階級の」という意味とは無関係。ブークレのような立体感のある糸)を専門に取り扱う。高度で緻密な製造工程は、世界中から仕入れた俵梱の未加工ファブリックから始まる。「ウールはオーストラリアやフォークランド諸島から仕入れ、英国産ウールも使っています。それから、アルパカやシルク、モヘアは南アフリカや中国、その他の地域から仕入れています」とソーンバー部長は説明し、私たちを中2階に導いた。そこには、400キロ、500キロの繊維を含む俵梱がきっちりと積み上げられていた。

「弊社は隙間市場に特化したメーカーですので、特定品種の羊から作ったものを必要としているお客様が多くいます。羊の品種によって性質が異なるからです。ニットウェアに適した品種はカーペットに最適ではありません。やわらかい手触りを好むお客様にはブルーフェイスレスター種が必要です。光沢エフェクトを求めるお客様はウェンズリーデールウールが必要となります。メリノは弾力性と伸張性に優れています」ラクストンズのサービスは効率の良いカスタムメイドだとソーンバー部長は説明する。「弊社は糸を作ってから購入してくださいと頼むのではなく、お客様が『ソックスを作りたい』とか『私たちの専門は少し質感のあるインテリア用ファブリックです』というのを聞いて、お客様の要求を満たすために弊社が何を使う必要があるのかを説明します。お客様は何を手に入れたいかわかっています。私たちはそれを実現するためのウールの選び方を把握しています」

製造レシピに沿って大量に計り分けた繊維を、地上階の広々とした作業場につながった大きなパイプに落とす。作業場にある精密機械は人間の判断を組み合わせ、動的に運営されている。「ここでは自動ドフィング(糸巻きなどを繊維機械から外す作業)やロボットは使われていません」とソーンバー部長は説明する。「弊社で扱っているのは天然繊維ですので、機械任せにすることはできません。人工繊維を取り扱っているのであれば、機械にさまざまな自動設定を加えて10倍ほど早く動かすことができます。しかし、ウールはもっと慎重に取り扱う必要があります」

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なぜか?「弊社が受け取る俵梱は、まったく同じラベルのものであっても俵梱ごとに異なるからです」とソーンバー部長は説明する。「ウールは毎回同じ気候の下で、同じ羊からとれるわけではありません」実例として、ソーンバー部長は私たちをドラフト機へ導いた。さび色とブラック、ホワイト、ベージュの原毛メリノ繊維が混ざった深みのある秋らしい栗色のウールが、数フィート離れて異なるスピードで、ローラーによって丁寧に引き伸ばされていた。

「フォークランドウールの俵梱1俵を1週間加工し、2週間後に同じフォークランドウールの別の俵梱を加工する場合、機械に異なる設定をする必要があることもあります」とソーンバー部長はいう。「繊維の長さや長さのばらつき、水分含量、染めおけに放置されていた時間が異なります。朝に機械のスイッチを入れて夜にスイッチを切るだけの操作ではありません。人間による調整が必要です。それも多くの経験を積んだスタッフの」

とはいえ、同工場では驚くほど高度なテクノロジーが使われている。光検出自動レベリング機が、加工のこの段階で、糸の直径にばらつきがないことを確認する。糸に太い部分が検出された場合、ローラーは速度をほんの少し上げて糸をほんの少し伸ばす。細い部分が検出された場合、ローラーの速度を落とす。一方、糸から欠陥が取り除かれた後、ワインディング段階では圧縮空気技術を使って糸の端を継ぎ合わせるので、目障りな結び目を処理する必要はなくなる。

人間とウールの関係は原始時代にまでさかのぼるが、工場内の他の場所で目にすることのできる工程は羊毛に関するその深い知識を証明している。たとえば、紡績とよりの段階をみてみる。紡績段階では、スピンドルは反時計回りに回転し「Z」方向に動く。よりの段階では、スピンドルは時計回りに回転し「S」方向を確実にする。この結果、より戻りしにくいバランスの取れた糸ができあがる。もし、糸が扱いづらい場合(専門用語では「live(生きている)」という)昔ながらの修正方法は、蒸気、だ。しかし、蒸気にあてると、かさ、柔らかさ、ボリュームも加わる。ほどよいバランスをとるのが難しい。蒸しが十分でないと扱いづらいままとなる。蒸し過ぎると黄色くなる。

乾燥させたウールは機械を使って巻き取られる。このワインディング機は、角度や回転円周、回転スピード、ドロップの高さなど、数多くの設定をする必要がある。ワインディング機の修理・メンテナンスを担当する技術者は「ロケット科学者のレベル」とソーンバー部長は表現する。出来上がったかせは、ラベル付けをし、梱包され、バーコードがつけられ、ステッカーが貼られ、販売先へ送られる。しかし、ラクストンズの作業はこれで終わりではない。

「朝に機械のスイッチを入れて夜にスイッチを切るだけの操作ではありません。人間による調整が必要です。それも多くの経験を積んだスタッフのね」

工場の作業場に隣接する狭い試験室には大量のアーカイブが並び、色とテクスチャ、品質の観点から一貫性を重視する姿勢を物語っている。「製造ごとにサンプルを保存します」とソーンバー部長は説明する。「そうすることで課題に対応し、問題を根絶できます」ウールのひとかたまりが届くとすぐに、ラクストンズの品質管理担当者が繊維の長さをチェックするのもこの試験室だ。「あるひとかたまりのウール繊維は異なる長さであるべきです。まったく同じ長さだと適切に紡績を行うことができません。しかし、ひとかたまりに含まれる最も長い繊維と最も短い繊維の長さの差があまり大きくならないようにする必要もあります」

前世紀に乱高下を体験したラクストンズが現在、順調に明るい未来へ進んでいる理由は、この神経質なまでの細部へのこだわりだ。今年1月の時点では無数の部品でばらばらだった機械は、組み立てられ作業順序に並べられた。現在、約25人の作業員が熱心に働き、高品質の原フリースから優れた糸を作り出している。シャネルやルイ ヴィトン、マーク ジェイコブス、ポール スミスなどのファッションブランド大手が同工場で生産される糸を利用している。ラクストンズは英国繊維産業が沈滞状態だというイメージを覆してくれる。

ニック・スコット(Nick Scott) は『Robb Report』イギリス版のエディター。『The Rake』の編集長と『GQ Australia』の副編集長を歴任。ロンドンをベースとするライターであるニックは、『Esquire』、『The Guardian』、『The Financial Times』などで特集が掲載されてきた。